「【視察】スウェーデンという国の力強い思想について」

スウェーデン視察(平成31年4月8日~4月15日) No.1

「スウェーデンという国の力強い思想について」

今年4月に現在普賢学園の建て替えやグループホーム建設を相談している設計士の方やその他全国の障害福祉関係者とスウェーデン福祉の視察に行って参りました。
私にとって今回の大きな視察のテーマはスウェーデンにおける障害の重たい人たちの生活はどのようなものか?また日本で応用できる点はどこかの2点でした。高福祉・高負担と言われるスウェーデン福祉と中福祉・中負担と呼ばれる日本の福祉は一概には比較出来ませんが、現在混迷を極める日本の障害福祉の今後の展望の何かの参考になればとの思いで参加をしました。
視察をして感じた事はこの国では”全ての人は平等である”という思想が徹底されているという事でした。平等の定義は非常にシンプルで、”同じスタートラインに立つ事”です。すべての人が同じスタートラインに立つ(あるいは立てる)ように手立てをすることが福祉の役割という事が非常に明確にされています。そして、スタート地点を0とすればマイナスの状況にある人について徹底的な支援が行われす。
例えば、スウェーデンには”パーソナルアシスタント”という福祉サービスがあります。これは支援が必要な人に対して、マンツーマン体制でその方の生活をサポートするサービスです。驚きであったのはその手厚さです。身体介護の支援度が高くが2名必要であると認められれば、24時間体制365日2名のアシスタントを付けてその方の生活をサポートする事が行われます。24時間365日を常時スタッフが支援するとなると1日のべ6人(2人×3交代)。休み等を考えると常時8人のスタッフが年間を通じてその方を支える事になります。スウェーデンの一人当たりのGDPは非常に高く、年間53800USドル(2018年、日本は39300USドル)ですので単純に計算して、日本円で約4700万円の支援費用が投入されているという事になります。
また”平等”の考え方はこれだけではありません。障害の重たい方や高齢の方は、なかなか自由に外出をする事が難しい場合がやはり多い事も事実です、だからこそ”部屋からいい景色が見られる場所へ”という考えから海沿いや都市中心部など景色が良かったり、アクセスが比較的容易な所に多くのグループホームや老人施設は位置しています。さらに、スクーグシュルコゴーデンという世界遺産に登録されたストックホルム市民のための素晴らしい景観の墓地がありますが、ここでも墓石の形などに個性はあっても大きさはほとんど同じ、宗教の違いなく市民であればだれでも利用出来ます。”生まれてから、死ぬまで、人間のスタート地点は平等であるべき”という観点から、生前の地位や財産、どんな宗教を信じていたか関係なく、同じ場所で同じように市民が眠っています。
スウェーデン福祉には”スタート地点での平等”という達成すべきゴールが明確になっており、そこに向けて一切の妥協なく、合理的かつ効果的に制度が運用されています。これは福祉だけではありません。国の運営そのものが合理的かつ効果的に運用しようという確固たる意志に基づいているように思えます。選挙の投票率は85%以上で国民の政治への関心が非常に高く、手厚い福祉制度を維持するために国民全員が何らかの職業に就き、国に貢献し、支えるという認識が強くあります。まただた単に手厚いだけの福祉ではなく、基本的に福祉は措置の形態をとっており、行政によって審査があります。その審査を通り、福祉サービスの支給量が決定しますが、利用施設は基本的には本人が選ぶことは出来ず、行政が決めた事業所を利用しなくてはいけません。(これは効率的な福祉制度の運営を行うために行っている事と思われます。)支給量の決定については特にADL(日常生活動作)と呼ばれる日頃の生活をどの程度自分で出来るか?という観点が重要視されているようであり、ある程度生活の自立が出来ている人に関してはかなり厳しい支給量(希望が反映されない)となってしまったり、そもそも施設を利用できないという事も少なくないそうです。特に生活面ではある程度自立している発達障害の方がそのような傾向を受けやすいとの事でした。マイナスから0部分の不足量を補う福祉サービスは日本とは比較にならないほど手厚い部分もありますが、0以上の部分は自助努力や互助の部分が大きいというのがスウェーデン福祉の特徴ではないかと思われます。
北欧が福祉制度の先進国となった思想の背景にはバイキング文化があると言われています。バイキングには組織を一つの家族体と捉え、海で命を落とした仲間の家族を皆で支え援助するという文化があったと言われています。その安心があったからこそ、組織に忠誠を誓う強い組織が生まれ、バイキングは繁栄したのではないかと思われます。時は流れ、現在でも国を大きな一つの家族とし、国民を一人も取りこぼさないという強い意思が社会制度の隅々にまで感じられる国がこのスウェーデンでした。

普賢学園 園長 本田尚久

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